著者の作品では初めて「ジーノの家」を読み、平易な文体でとても深い光と影の物語を刻んでいることに驚きました。丁度、本書が文庫版で出るところで、あまり待たずに手にすることが出来ました。期待を裏切らず、著者が出会った人々が目の前に浮かび上がり、イタリアに旅をしたような読後感が心地良い傑作です。須賀敦子氏の著作ともども、イタリアに対する深い愛情が伝わってきます。彼女達がはたして母国である日本をどう描いたのか、描けたのか、探してみようと思っています。

南京事件は争点であり続けている。事件の有無から被害者の数まで。著者は桶川ストーカー事件などの真実に迫る調査報道で令名高いジャーナリスト。時の経過により当事者が物故して行く中、元兵隊に辿り着いても沈黙の固守。また、現地調査も自由にならないという制約だらけの中で、南京にいた兵士達の日記が静かに事実を物語る。あくまで抑えた筆致ながら、込められた思いの熱さが伝わり、様々な言説に対する自分の向かい方を省みさせられる。一読を勧めます。

以前から書名は知っていましたが、本屋の店頭で突然売れ筋になった旨の表示を見て、即決購入しました。今は、本書をこれまで読まずに来たことへの反省と、ぶれない信念と柔軟な政策立案プロセスに対する感服の念で、暫し読後の余韻に浸っています。一人の人間だけで大きなプロジェクト全てをやることは出来ませんが、出来ないと思われることが一人の人間によって出来るようになる、人間の可能性に対する信頼を呼び起こしてくれる名著です。

インパール作戦に関する戦記を何冊か読みました。その作戦の杜撰さと愚将のエゴイズムに呆れるばかりでした。本書は敵、相手側から見たらどうだったのかという疑問に答えてくれます。ビルマ占領から一気にインド攻略を図っていたら、成功していたかも知れないという見方や、日本軍も現地住民への浸透を精力的に進めていたことなど、同作戦の異なる様相が示されています。改めて、人間が虚心坦懐に状況を把握することの難しさを感じました。

異次元緩和の行く末に不安を感じて、関連書を数冊読んだところ、やはり副作用に苦しむことになるのか、と気が重くなっていました。そこに本書が登場し、懸念をほとんど吹き飛ばしてくれました。アベノミクスを賛美するかのような記述に疑問を覚えながら読み進めると、的確なエビデンスで語られる言説に、うなづきを繰り返していました。美学に殉ずる政策の恐ろしさは、あらゆる分野でも留意すべきだと思います。刺激的な一冊です。

炭鉱町で生まれたけれど、子供の頃に閉山になり、記憶も朧げな自分にとって、その暮らしぶりがどうだったのか、とても関心があります。本書は、更に前の世代の話しではありますが、女性の持つポテンシャルが、当たり前に評価されていた暮らしがあった。そして、それは失われたようだが、将来に向けて復活の可能性を十分に予感させます。地底からもの凄い力で揺り動かされたという気持ちが、いつまでも残ります。

米国においてポピュリズムの台頭を招いている真因を、懇切に分析提示している。能力主義、学歴偏重がもたらすエリートの傲慢さの事例は、具体的で生々しい。改善の方策は、驚く程簡潔明瞭に記されており納得性もあるが、実行にあたって生じるであろう軋轢とそれを乗り越えるプロセスについて、更なる講義を求めてしまうのは、私が怠惰な読者だからだろうか。いや、きっとサンデル教授が好きだから。

「歴史が語っているのは、上層の一と皮だけの日本」との認識の下、支配される人々が、いかに維新前後の時代を生きたかを描くという、複眼からの視点を提示する貴重な書だと思います。記録に基づく記述ゆえに、全く無名の人々を扱う訳にはいかないのですが、その企図には得心します。残念ながら著者は逝去されましたが、続巻が編集されているとのこと。期待しています。

百周年を迎えた中国共産党の歴史が、その特有の性質がいつ、どのように生じたのか、ということにフォーカスして描かれている。そのため、個別の出来事の列挙によって迷路にはまることなく、驚くほど平明かつ面白く、今の党の体質が理解出来ます。３百数十ページありますが、その豊富な内容からすれば、大変コンパクトにまとめられた、素晴らしい百年史だと思います。

以前から、ヤマモリのグリーンカレーは本格的なタイの味、香りで美味しいと、ストックして食べていました。しかし、迂闊にも他に４種類ものタイカレーがあり、セットで販売されているとは思いませんでした。辛さも違うので体調に合わせて選ぶ事も出来ます。どれも期待を裏切らない、夢のタイカレーセットです。レトルトで保存がきくので、常備するようにします。