ヴィクトリア朝に活躍した名刑事ジョナサン・ウィッチャーと、後のさまざまな探偵小説に影響を及ぼしたロード・ヒル・ハウス殺人事件について書かれたノンフィクション。ジョナサンの名声と失墜、労働者階級に属する刑事が、中流以上の階級の家庭内で起きた事件を操作することの難しさ、偽善的なヴィクトリア朝時代のお屋敷の人々の裏側、なかなか興味深かった。何よりも可哀想なのは被害者の坊や（当時３歳、首がとれそうなほどの深いナイフ傷を負って屋外便所に投げ込まれた）だが、その原因を作ったのは間違いなく父親と継母だろう。

ヒトラーとスターリンの占領地域ブラッドランド（流血地帯）における死者は約1400万。人間が人間に対してなし得た未曽有の蛮行を、著者は冷静に分析する。 結論の内容が心に残る。数値で表された死者は一人一人が人間であった。地面の下で妻に再会することを処刑前に予感した夫。シナゴーグの壁に父への別れのメッセージを刻みつけた少女。家族の死を日記に記しながら自らも餓死した少女。数値を人に戻すことが人間性の証左である。 つらい内容だが、二十世紀に起きた未曽有の大量虐殺の全貌を追求する上で必読の書だと思う。

アイヒマンの逃走劇と（回想録のタイトルが日本語で『我が逃走』になるのは大草原）、ナチの残党たちの状況の変遷が面白い。アイヒマンをはじめとする中枢にいた者たちが隠遁先とそこでの生活を得たことに安堵する一方、サッセンを始めとする若いネオナチは千年王国の復活に期待を寄せる。アルゼンチンはペロン政権の影響でナチスの残党が半ば公然と生活できる場になっていく。しかしペロン政権が崩壊し、各国でナチス犯罪研究が盛んになるにつれて、サッセンら取り巻きはアイヒマンにドン引きするようになる。

金にとりつかれた男たちの、バトル・ロワイアル。そこには、綺麗な一本背負いなんてない、寝技のようなジメジメした戦いしかありませんでした。国に癒着して成長し、特定の個人に莫大な富をもたらしたテレビ放送。権力から独立している立場を唄う彼らを、もう本著を読んでしまった私は穿った見方しかできません。そしてこれほどの人と人の騙し合いの果てに、名前も忘れられて亡くなっていくという無常観。金と権力を求める欲望の赴く先には何があるのか、考えさせられた名著でした。

『見えない人間』は、アメリカ合衆国の作家ラルフ・エリソンの長編小説。原題はイギリスの作家H・G・ウェルズのSF小説『透明人間』と同じ。本作における「見えない人間」とは、アメリカ社会において黒人が置かれた立場の比喩である。

『見えない人間』は、アメリカ合衆国の作家ラルフ・エリソンの長編小説。原題はイギリスの作家H・G・ウェルズのSF小説『透明人間』と同じ。本作における「見えない人間」とは、アメリカ社会において黒人が置かれた立場の比喩である。

歴史の真実が一つなんてことはない、ということかも。トランプ大統領風に言えば、フェイク歴史というもののほうが世界に広がっているんじゃないかな。南京虐殺も従軍慰安婦も、どこかの国にとって都合がいいフェイクなんだと思う。

欧州各地で吹き荒れた夥しい残虐行為―復讐、民族浄化、内戦―などを、英国の歴史家が、証言や統計史料を駆使して包括的に論じ、「戦後の闇」に光を当てる。口絵写真・地図多数収録。ヘッセル=ティルトマン賞受賞作品。